栄養管理

がん患者の栄養管理については、予防医学、周術期管理がん薬物療法、終末期医療など、その重要性が注目されている。予防医学については、1981年にDollらが米国人のがん死亡に食生活が35%関与するとの報告をして以来、がん発生と食生活に関しての研究報告が多くなされている。

周術期管理では、術前の栄養管理が術後合併症発生率を抑制するなどの報告があり、外科医にとって術前後における栄養管理が外科的治療成績に大きく関与することは周知の事実である。

がん薬物療法において、副作用により経□摂取不良に陥り低栄養状態となった場合、患者のQOLが低下するばかりでなく、治療の継続が困難となり治療結果も悪化する。

終末期医療については、Bestsupport⊂areの一環として栄養療法が行われている。

このように、がん診療における補完療法として栄養管理が行われているように。漢方医学も同様に活用されることにより、患者の状態からよリ多くの情報を得ることができ、がん患者のQOLを少しでもよい方向へ導き、がん医療に貢献することができる。

漢方医学診断によるスクリーニング

SGAとODAで栄養障害がなし症例のなかから漢方医学診断を用いて栄養障害を拾い上げる。
SGAとODAによるスクリーニングでは、栄養状態の異常を見つけることができないが、臨床的視点からは、栄養障害の存在が疑わしい症例を漢方医学診断によって拾い上げることができる1たとえばくり返し行われる外来化学療法の症例においては、PSO~1、血液検査においても治療が続行可能な状態としてスクリーニングされるため、栄養障害の存在を認めることが少ない。
しかし、医師、看護師、薬剤師などの医療スタッフは、経時的にがん患者の表情が暗くなり、肌の乾燥、目の下のクマ、皮膚色素沈着や湿疹全身倦怠感、食思不振便通異常。睡眠障害、精神的不安感など、多くの愁訴とともに変化していくことを感じている。
これらの情報と栄養評価を連動して臨床の現場で活用するために漢方医学診断を用いる。

栄養状態は「気虚」

がん治療の方法によって、がん患者が受ける負担が決まる。治療前PSがどの程度低下するかを予測してがん治療が行われるため、治療後PSが予想できる。これはがん治療によっておこるPSの変化が一定であると考える。
栄養状態を漢方医学では、「気」としてとらえる。漢方医学における消化吸収機能は、胃ならびに脾といわれ、消化吸収機能障害は、「気虚」と考えられる。
「元気がない、疲れる、全身倦怠感、易疲労感」ばかりでなく、「食欲がない、胃がもたれる」も「気虚」の症状である。
術後の食思不振や化学療法における食欲低下なども「気虚」と考える。

「気虚」に用いられる漢方薬

「気虚」には、参耆剤、人参湯類、建中湯類を用いる。

●参耆剤
「人参は中を補い、黄耆は気を益す」といわれ人参と黄耆が配合され、補剤として用いられる。
疲労と倦怠感を主目標として用しられることからPSの低下に対応して使用することができる。
参耆剤の代表として補中益気湯・十全大補湯・人参養栄湯などがある。

・補中益気湯:医薬の王様という意味から医王湯の別名がある。
津田玄仙(1737~1809『療治茶談』)は、この方剤の使用目標を①手足倦怠、②言語軽微、③目に勢いがない、④□中白沫、⑤食味がない、⑥熱物を好む、⑦膀にあたって動悸、⑧脈散大で力なし、として、すべてがそろわなくてもよく、いくつかがあればよいとした。

・十全大補湯:四君子湯に四物湯を合わせ。黄耆と桂皮が加わった方剤。四物湯がもつ「血虚」を治す目的が加わっているため、貧血、白血球減少などの骨髄抑制、手足の皮膚・爪などの障害に対しても用いられる。副作用として下痢があるので注意をする。

・人参養栄湯:十全大補湯から川苛を除き、五味子(鎮咳、去渓)、遠志(精神安定)、陳皮(健胃、鎮咳、去疾)を加えた方剤。十全大補湯の状態に呼吸器症状が加わった場合に用いる。

●人参湯類
「健胃、強壮作用、代謝促進、免疫賦活作用などをもつ人参を含む方剤」である。人参湯類には。人参湯、四君子湯六君子湯、戻苓飲などがある。

・人参湯:人参湯は理中湯の別名があり、理中とは「胃の機能を整える」という意味がある。急性胃炎。慢性胃炎、消化性潰瘍、過敏性腸症候群狭心症、気力・体力の低下を伴う慢性疾患に用いられる。

・四君子湯:人参湯の乾姜を生姜にかえ、戻苓、大秦を加えた「気虚」の基本的方剤である。

・六君子湯:四君子湯に二陳湯(快苓、甘草、生姜、陳皮、半夏)を合わせた方剤で、四君子湯に陳皮、半夏が加わっている。舌の白い苔を認めることが多い。

・侠苓飲:四君子湯から甘草、大喪を除き、陳皮、枳実が加わった方剤である。胃部膨満感、胃液分泌過多に用いられる。

●建中湯類
「胃腸を建てなおす」という意味で、大建中湯小建中湯黄舌建中湯には水あめ(膠飴)が配合され、体の中の状態を補うことを目的とする。

・大建中湯:人参、乾姜。山淑、膠飴によって構成されている。小建中湯や黄書建中湯とは、構成生薬が異なるので注意する。大建中湯で腹痛下痢などの症状によリ内服が継続できない場合は。小建中湯へ変更するとよい。

・小建中湯:過敏性腸症候群に用いられる桂枝加芍薬湯(桂皮、芍薬、生姜、甘草、大棗)に膠飴が加わった方剤。桂枝加芍薬湯で腹痛下痢などの症状によリ内服が継続できない場合は、小建中湯へ変更するとよい。

・黄耆建中湯:小建中湯に黄耆が加わった方剤。小建中湯よリも疲労感・倦怠感が強い場合に用いる。

「気虚」に用いられる漢方薬の選び方

SGAとODAを参考に、栄養状態の評価を行った後、基本的な栄養療法を計画する。
その上で、漢方診断を加え漢方薬を選択していく。
実際には、漢方薬は内服薬が多いので、経腸栄養が行える症例が対象となる。
場合によっては、胃痩あるいは経管栄養で投与することも可能である。
投与量に関しては、がん化学療法と同じように満量投与を基本とする。

BMIが18.5以下に落ちてしまっている慢性的な栄養障害や急激な栄養不良に伴う症例などでは、投与量を加減する必要がある。とくに十全大補湯は副作用として下痢を認めることがあるため注意すること。

どの漢方薬を投与すべきか迷った場合には、適応に近い漢方薬から選択していくことである。たとえば、PS1症例に補中益気湯か十全大補湯か迷った場合は、十全大補湯を選択する。

PS2症例に、六君子湯か四君子湯か迷った場合は、四君子湯を選択する。

PS3症例に、四君子湯か人参湯か迷った場合は、人参湯を選択する。

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